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恍惚なる治療[改訂版]
第9章 都合のいい存在

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「佐伯先生、今日もお仕事させていただきますね」
「ああ、よろしく…」
「……」
「雨の中来てもらってごめんね」

三雲さんの顔を一瞬見上げて、すぐにパソコンの画面に視線を移した。
昨夜から雨が降り続き、湿った空気が身体に纏わり付き、鬱陶しくなる…

あれから2週間…
体調も気持ちも、柳川さんと出会う前の自分に戻ったような気がする…
家に引き篭もる生活に戻り、三雲さん以外の女性とは会う事もせず、外出して人に慣れる事もしない。

ただ、2つだけ以前とは違うものがあった。

1つは柳川さんとのライン。
あれから柳川さんから連絡が入っていたが、メッセージを読むのが怖くて、通知を切って以来、トークを開いていない。
ブロックすれば良いのに、それをしようとすると身体が震え、呼吸が乱れる。

ラインが唯一の繋がりだと気付いてから、ブロックせず、トーク画面で柳川さんから送られてくるメッセージを軽く確認するだけで、既読を付けずに返信もしない…

もう1つは性欲…
あの日、期待していた身体は帰宅してから性欲に煽られ、身体の奥をグズグスに滾らせた…

柳川さんの手や行為を忘れようとすればする程鮮明に思い出され、身体の疼きは増して、自慰行為で発散しろと身体が悲鳴を上げていたが、俺は意地でも触ったりしなかった…

ホテルに行った帰りに柳川さんの「僕を思い出して」という言葉に抗うように性欲を押し殺し、仕事へとぶつけていった。




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