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恍惚なる治療[改訂版]
第9章 都合のいい存在

駅の入り口で水滴を落とし続ける雨雲に覆われた空を眺めていると、改札口の方から柳川さんが現れた。
久しぶりのスーツ姿を眺めていると、戸惑ったような笑みを浮かべて傍にやって来た。

「佐伯さん来て下さってありがとうございます」
「いえ、この前はすみませんでした…」
「…その話は後ほどするとして、夕食は済まされましたか?」
「はい」
「そうですか。では行きましょうか」

ーーーーーーー

柳川さんに連れられて来たのは、入り組んだ道の先にあるバー。
客の囁き声が聞こえそうなくらい静かな店内にカウンターに並んで座った。

「ソルティドッグで」
「僕はダイキリで…この前はお見苦しい所をお見せしてすみませんでした。彼女は2カ月間セフレの関係だっただけで恋人ではありません」

そう言い切ると、出されたカクテルを一気に飲み干してお代わりを頼んだ。

「そうなんですか?てっきりあの後彼女と…」
「そんなわけないでしょ。あなたが居るのに…」

ーあなたが居るのにー

「それが嫌なんですよ。俺が居るから何ですか?性欲を発散出来るから他の女性は必要ないって事ですか?」
「すみません、そういう意味じゃ無いですよ。あなたが好きで、あなた以外欲情しない中で他の女性を抱けるわけないんですよ。僕はあなたを性欲処理の都合のいい存在だと思った事は1度もありません」




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