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恍惚なる治療[改訂版]
第5章 彼の素顔
「佐伯さん、先程は申し訳ありませんでした…初めてお会いした方に失礼な発言をしてしまって」
「いえ、気にしていませんので」
席に座ると、三雲さんは切り出そうかと迷う素振りを見せたので「大丈夫」と視線を投げ掛ければ、顔を少し綻ばせてお母さんに切り出した。
「お母さん、私まだ佐伯さんとは結婚しない…お母さんが私の事を気にしてくれるのは嬉しいよ。大学を卒業して仕事を始めて、ようやく趣味も見つけられて仕事も楽しいと思えるようになったの。今結婚しちゃったら、それを十分楽しめなくなる…だから結婚のタイミングは自分で決めたいの。お母さんの気持ちに添えなくてごめんね…」
泣きそうになるのをグッと堪えながら三雲さんは自分の気持ちを率直に伝えられた。
三雲さんの頭にお父さんの手が重なり、撫でながらお母さんを見つめる。
「穂波よくお母さんに話せたね…文乃、お前が穂波の事を誰よりも大切に思って、育ててきたのは僕が1番良く知ってる。でも、結婚するまでの期間は人それぞれだよ?佐伯さん達も自分達のペースがあるんだ。だから、ゆっくり見守ってあげよう」
お父さんの柔らかく、芯から温かくなる言葉にお母さんは目頭を押さえた。
「そうね…佐伯さん、穂波…ごめんなさい。もうお見合い話は押し付けないわ。あなたの自由にしなさい。佐伯さん、これからも穂波の事をよろしくお願いします」
「は、はい…」