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あの時、あのBARで
第3章 再会という名のBAR
カウンターに戻ってきた潤平に、
たっちゃんはバランタインのファイネストブレンデッドのロックを、
瞳と伊知子はカクテルの、ミモザとキールをそれぞれ頼んだ。
「カクテルかぁ・・潤平さんのカクテルももちろん美味いけど、
川又さんのカクテルも美味かったねぇ」
ロックグラスを傾けながら、たっちゃんが懐かしむ。瞳も伊知子も静かに頷く。
すると、何かを思い出したように潤平が、そういえばね、と伊知子のほうに顔を向けた。
「あら、私、そんなにきれい?」
自分を見つめていると思い込んでいる伊知子は、うふんとウィンクして見せた。
「いやそうじゃなくて」
あっさりと言い放つ潤平は、そこの席に、と話を続けた。
「何日か前にね、初めてだっていって男性客が入ってきて、一番端の席、
伊知子さんが座ってるその席に座ったんだ。
その方、自分もバーテンをやってたんだって言ってね。話が盛り上がってさ。
カクテルの大会で準優勝したことがあるんだって、照れくさそうに話してくれたんだよ」
カクテルの大会で準優勝、という言葉にカウンター席の3人は、
それぞれの表情で懐かしさと驚きを見せた。
川又さんも準優勝したことがあるって、瞳と伊知子に教えてくれたのはたっちゃんだった。
そのたっちゃんが、いくつくらいのどんな人だったかと聞いた。
60代くらいの穏やかそうな紳士だったと潤平が答えると、
3人は同じように体をのけ反らせて更なる驚きを表した。きっと3人の頭の中には、
川又さんの笑顔が同じように思い浮かんでいたに違いない。
たっちゃんは、ほんの一瞬だが目じりを指でこすった。