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嘘の数だけ素顔のままで
第5章 去勢【4】
 だめです……だめだめ、

 いいから、

 だめ…っ……だめなのに、

 ヒタチノゾミはそう言ったあと、諦めたように大きな溜め息をついた。そして、ひめやかな声をひきずるようにあえぎだした。


 ドアに手をつく音がした。ヒタチノゾミは、熱い……熱いと弱々しい音を上げドアに爪を立ててしきりに引っ掻いているようだった。その時折、ヒタチノゾミの顔からは想像もつかないような低いうめき声があがった。


 あ…っ……『先生』そこ、きもちいい、

 コトブキの後ろで物音がした。


「おつかれさまでーす」

 コトブキが見たのは、オオハナタカコの姿だった。数十分前と同じ服装でノートパソコンを抱えていた。オオハナタカコはこの場にコトブキがいるのを意外そうな表情で見つめていた。


「『先生』っています?」

 状況を何も知らないオオハナタカコは、ネット繋いでるとパソコン重いから見て貰いたかったのに、そう言ってそのあとにも長々と何か喋りそうだったから、コトブキは慌ててシーッというジェスチャーをした。


「え、何?」

 コトブキは、オオハナタカコを見ながら耳をそばだてた。――トイレから物音がしなくなった。


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