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嘘の数だけ素顔のままで
第5章 去勢【4】
 トイレ内のもつれあう吐息はしだいに輪郭を帯びてきた。衣擦れの様子から『先生』の態度に遠慮がなくなってきたのがわかった。スリッパがパタパタと渇いた音を立てた。湿っぽいあえぎ声がながくながくひきずっていった。


 コトブキは生唾を呑んだ。横目を使ってオオハナタカコの方を窺った。オオハナタカコは、コトブキの存在など忘れてしまっているかのように言い尽くせない眼差しをしていた。口を覆っていた手が今は拳を握るように丸まっている。


 経験のまるでない自分よりもオオハナタカコの思い描いている痴態の方が、よほど現実味があるのかもしれない、コトブキはそう思った。と同時に、自分のからだが少しずつ動けるようになってきていることに気がついた。

 オオハナタカコのことを横目で窺いながらそれとなく股間をいじった。パンツが擦れたとき我慢汁が出ているのがわかった。


 ふいに、オオハナタカコが咳をした。


 コトブキは股間の手をはずすのと一緒にオオハナタカコを見た。オオハナタカコはドアを見つめたまま瞬きをしただけだった。危ないところだった。ぎょっとした今の顔を見られなくてよかった、コトブキは慎重に溜め息をついた。


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