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嘘の数だけ素顔のままで
第5章 去勢【4】
「やだ……こないで」

 オオハナタカコの顔に初めて脅えの色が見えた。コトブキは微笑んだ。歪んだ口角には今後の人生を破綻させかねない肉欲の限りが詰まっていた気がした。コトブキは、オオハナタカコの手を取った。


「やだ……離して」

 オオハナタカコは目許をきつくさせて睨んできた。だが、コトブキが今一度微笑むと再び脅えの色が顔にでた。コトブキは摑んだ手に力を込めた。


「ほんっと……いいかげんに……」

 オオハナタカコは手を振り払おうとした。その力の分だけコトブキも力で返した。オオハナタカコの表情に恥のような笑みが現れてきてみるみる顔を赤くさせていった。


 あん…っ……あん…っ……あん…っ……あん、

 コトブキとオオハナタカコの二人は揉み合いながらヒタチノゾミのあえぎ声を聞いた。コトブキはオオハナタカコを見た。オオハナタカコもコトブキを見た。

 コトブキはあえぎ声に背中を押される思いでオオハナタカコを抱き寄せた。コトブキの腕の中でオオハナタカコは暴れた。いやいやと頭を振って乱れた髪からは女の匂いがした。コトブキはペニスをスカートに押しつけた。ペニスで窪んだスカートの先に女の花園があるはずだった。オオハナタカコの息遣いが切迫していく。


 アン…ッ……アハン…ッ……アン…ッ……アン、

「ウチの人に……いうわよ」

 まさか……コトブキは口の端を緩めた。ヒタチノゾミの歓びに耳をそばだてた。本当は期待してるんですよね、そういう文字列がコトブキの脳裏で点滅していた。オオハナタカコの黒いスカートにナメクジが這ったような染みがついていた。


 オオハナタカコが、ほんとにいいのね、と言った気がしたが、ヒタチノゾミのあえぎ声に耳をそばだてていて本当にそう言ったのかよくわからなかった。

 コトブキは生まれて初めて女の尻に触った。壊れものに触れるように少しだけだった為、尻の弾力も感動も特になかった。オオハナタカコは腕を突き出しのけ反るようにしてコトブキから離れた。


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