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嘘の数だけ素顔のままで
第10章 孤立【2】
 スカートが上がってきても女は真剣そのものだった。コトブキが肌色のストッキングに見惚れているとスカートの奥が無防備に開いた。かしずく仕草のひとつひとつが優しかった。女の化粧には汗が光っていた。


 もし童貞のまま年老いてからだが動かなくなったら……昨日そんなことを考えてコトブキは絶望していた。無性に女に甘えてみたくなった。

 もっと自分を解放する為にはどうすればいいのか。この女の前で自分の尊厳も社会性も過去も全部捨ててすべてを預けてみたい、そう思った。万歳するんだ、底尽きの人生でした、もう自分の力ではどうすることもできません、

 聖母マリアの前でおれは跪き、そして、おれはアナタを信じます、罪深き僕はアナタから受けた命を今ここでアナタの許へお還します、アーメン、さあ、アナタの御心のままに、

 主の道を整え、その道筋をまっすぐにせよ、おれは万歳だ、万歳したんだ、万歳……万歳……コトブキは両手で吊革に摑まった。


 コトブキはふいに泣きそうになった。それでも涙で歪んだ唇を噛んで顔を上げた。見ればいい……ありのままを見ればいいさ、

 これがおれだ……無様だろう、だから何だ、そう思ったとき、背中の鈍痛が嘘のように消えた。眩い光が差し込んだように瞼の裏側がとても明るくなった。そして、勃起した。


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