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嘘の数だけ素顔のままで
第10章 孤立【2】
 コトブキは吊革に摑まっているだけでよかった。女がコトブキのベルトをはずし終えるまでは。股下から中に手を入れられた。唐突だった。睾丸を握られた。


「お玉が張ってらっしゃる」

 そう言って股下から抜いた手を女は自分の鼻先に近づけた。そして、溜め過ぎかしら、腐敗したザーメンの匂いがしますね、黄色く濁ってたりして、うふふ、可愛そう、と微笑んだ。


 女はコトブキの足を両手で捧げ持つと片っぽずつ靴を脱がせた。ズボンを足首から抜き取ってしまうと、今度はパンツを一気に下げた。


「ウエルカムちんぽ!」と女は大声で言った。

 コトブキは幼児にでもなった気分だった。吊革が身じろぎで軋んだ。女はコトブキに再び靴を履かせている間ずっと奇妙な笑い声を立てていて、

 いや、笑い声というよりは原生林に生息している小鳥のようなさえずりで、恐らくその小鳥というのは鮮やかなコバルトブルーで頭に羽毛が立っている、そんな鳥だとコトブキは思った。


 女はその場に立ち上がった。横広がりの腰つき。太っているせいで肌に艶がある。太腿が発達しているせいで脚が短く見えた。女とは目が合っているのに女はどこか遠いところでも見ているような気がした。

 上着を脱がされ、Tシャツも脱がされて再び吊革に摑まったコトブキは靴下と靴、それ以外は一糸纏わぬ素っ裸にさせられた。女はもう一度その場に諸膝をついて脱がせた服を丁寧に畳んだ。


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