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嘘の数だけ素顔のままで
第10章 孤立【2】
 コトブキは裸に靴下と靴だけを履いていることが恥かしくてたまらなかった。女は三つ指をついてこう言った。


「セクシー」

 コトブキは熱烈に下から見上げてくる女から視線を逸らした。そして、偶然目に留まった乗客の女から声にださずに、セクシー、と挽きたてのコーヒーの香りを味わうかのように微笑まれて思わず悶絶しそうになった。

 悪魔から聖母マリア様の僕、ついで幼児が大人の男根を付けた哀しい怪物となり果てた気がした。尻の弛んだ肉が羞恥に力んだ。コトブキの背後で、鼻で笑う気配がした。

 見世物小屋の小人はそうやって客に囃されるとおどけて見せるものだ。どこでそういったことを見聞きしたのか記憶が曖昧だったが、でも例えば、

 天皇を敬う気持を誰に教わったのかと尋ねられて答えられる日本人は全人口の一割にも満たないだろう。コトブキは尻たぶをぐいと寄せて宙に男根を突き上げた。自分のルーツを辿っていけば、もしかすると、

 どこかに一人くらい小人のじいさんがいるのかもしれないな、コトブキはそう思った。セクシー、とまた背後で声があがってコトブキは正面の座席にも喝采を求めた。


「セクシー! ウエルカムちんぽ!」と女は口々に言った。

 いったん哀しい怪物になってしまえば、あとは随分気が楽になった。母乳をねだるように唇をめいいっぱい尖らせて甘える素振りだってできた。しかも、その顔を乗客や三つ指をついた女に見られても動じない傲慢さえ同時に身に付けていた。


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