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マスタード
第3章 リサ・・・
ある意味逆玉だったと邪な考えが少しでも頭に浮かんでしまった自分が最低の男だと情けなくなる。
こんな男と一緒になってくれたとしても会社を興すこともなかったし、家族とだって和解できたとは思えない。

リサが幸せで輝いていてくれたのなら本当によかったと思ってまた水割りを口に注いだ。

「ごめんなさいね。奏ちゃんの顔を見たらつい懐かしくてリサのことをべらべらと」とママは少しバツが悪そうに笑った。

その姿は娘を想う母親の姿そのものであった。

「いや、ありがとう。リサが幸せになってくれたことが分かって嬉しかったよ。リサも大変な人生を送ってきたんだね。だからその分幸せでいてほしい」
と奏はママとグラスを合わせた。

「リサはね、こっちに用事があって来る時にはね、店に寄ってくれて手伝ってくれたこともあるのよ」
とママはまた嬉しそうに話し出した。


仕事で用事があってリサがこの街に来たことがこの10年で2度3度あったとのことだ。
その時には必ず店にも寄ってくれて、奏のことも気にしてくれていたみたいだ。

「奏ちゃんがこっちにいるうちにまた来てくれるといいんだけどね。もしリサが来ることがあったら連絡するわね」

そう言ってママは他の人には気づかれないようにこっそりとメモを奏に渡した。そこにはママの携帯電話の番号が記されていた。後で電話してということだろう。

客との個人的な交際は禁止なのはママが決めたこの店のルールなのだが、それを自ら破ってまでこんなことをしてくれるのはリサも奏もママにとって特別だと思うと嬉しくて胸が熱くなった。

宿舎への帰り道。山に差し掛かる所にコンビニがある。10年前はなかった店らしい。このコンビニが買い物ができる最終地点で、これを逃すとひたすら山道で買い物はできない。

コンビニでビールテイストを調達して山道を歩く。山道を登っていくと海や街を見降ろせるポイントがある。

「さようなら、リサ。幸せにね」

リサと歩いた海辺の道、リサのアパートがあった辺り、そして『愛』がある駅の辺りを見降ろして奏は独り乾杯をした。
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