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マスタード
第5章 抱擁
もっとも、この街には漁師や大工をしていて日頃から鍛えている人もいて、そういう人たちはかなり元気であるが、奏もその人たちに負けてないぐらいの体力を発揮した。

かけっこや競技は必ず3組ずつ行われるので、ビリでも3位、銅賞は取れるようになっている。
星志が幼稚園や小学生の時もそんなふうに行われていて、競争という概念があまりない優しい世界になったものだと思う反面、そういう世界で育った子供たちが中学、高校、そして社会人という厳しい世界に出なければならないので、それはキツいとも思う。

陽葵と奏のチームは1位ばかりで、悪くても2位だったので金メダルがいっぱいで時々銀メダルだった。

ミニ運動会も終わって帰りの時間になると突然雨が降り出して、季節外れの大雨になった。

愛美が車で迎えに来てくれたので大慌てで車に乗り込んだ。傘もあまり役に立たずに奏も陽葵も迎えに来てくれた愛美も濡れてしまった。

とりあえず愛美の家に戻ってきた。

「じゃあボクはここで」と奏が帰ろうとすると愛美が奏の腕を掴んで引き止めた。

「今日はお母さんいないから、お夕飯も食べてゆっくりしてってよ」

愛美の父親はもう何年も前に亡くなって、母親は長い間ひとりだったのだが、最近恋人ができて、今日はその彼と旅行に出かけているとのこと。

そんな年になっても恋人がいたりデートをしたりするとはスゴいと思う反面、こんな大雨ではせっかくの旅行も台無しだから悪いことをしたような気持ちになった。

奏は悪妻と別れられずにちゃんと結婚もできないのに愛美と付き合ったり陽葵のパパのように振る舞っていることに罪悪感を抱いていて、この大雨もそんな悪行に罰が当たったのだと思っていた。

「そんなことないよ。もし本当に罰なら幼稚園の行事だってできなかったはずよ。ちゃんと行事ができてから雨が降ったんだし、陽葵だって奏ちゃんが来てくれて嬉しかったはずよ」

奏の罪悪感を聞いて愛美は奏の腕をギュっとした。

「うん、そうちゃんパパと一緒でスゴく楽しかったよ」と陽葵も幸せそうに笑った。

「おじゃましま~す」

家の前まで送ってきたことはあるけど愛美の家に入るのは初めてだから奏はドキドキと緊張した。

「そういえば、お姉ちゃんは大丈夫なの?迎えに行ったりした方がよくない?」

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