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マスタード
第6章 幸せのタイムリミット
「奏ちゃん・・ごめんね、本当に申し訳ない」

愛美は深々と頭を下げた。俯いた拍子にまた大粒の涙が滴り落ちた。

「悪いのはボクの方だよ。本当にごめんね。絶対にまた会いにくるから」

「約束だからね」

ふたりは涙を流して指切りをした。
指切りなんて子供っぽくもあるが、それは何より大切で幸せな約束だった。

陽葵がぐっすり眠っていることを確認すると愛美は奏にキスをして身を任せた。

「今夜は店に泊まっちゃおう。ずっと一緒にいて、奏ちゃん」

「愛美・・」

奏と愛美はもう何度目かの契りを結んだ。
抱き合う度にいつも新鮮なドキドキを感じているのだが、別れを目前にしているから、いつになく激しくお互いを求め合った。
何もかも脱ぎ捨てて身も心もひとつになってお互いの愛を確認し合った。

「愛美・・」
「奏・・」

お互いの名前を呼び合って愛美は胎内に奏の愛を受け止めて幸せそうに微睡む。

「いつ帰ってくる?」
「夏のお祭りには帰ってくるよ」
「うん、約束ね」

ふたりは裸で抱き合ったまま指切りをかわした。

帰ってくると言うとなんだかこれから本当の単身赴任が始まるみたいだとふたりは顔を見合せて笑った。

「そっか、お別れだと思ったからあんなに悲しかったんだ。単身赴任だもんね、さようならじゃなくて行ってらっしゃいだよね」

そう言って愛美は吹き出した。

「この街には漁師の家庭とかもたくさんあるでしょ・・」

この街には父親が漁師という家庭もいっぱいあって、陽葵の幼稚園のママ友にもそういう家庭は多い。
漁師というのは一度漁に出たら数ヶ月とか半年スパンで帰っては来ない。ずっと海の上にいるのだ。

「たまにしか会えないからマンネリすることもなくて新鮮に愛し合えていいねなんて話をしてたんだけど、まさか自分がそうなるなんてね」

と愛美が笑うから奏も連られて笑った。

「漁師か・・確かにボクたちは漁師の夫婦みたいなカンジだね」

「気をつけて行ってらっしゃい。浮気なんてしたら許さないからね」

「しないよ。ボクが愛しているのは愛美だけだよ」

「嬉しい・・あたしも」

ふたりはまた裸のまま抱き合った。
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