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マスタード
第7章 奏ちゃんパパは単身赴任
天宮先生が異動になったことは吹奏楽部やクラスはもちろん多くの生徒が残念がった。
春休み中に行われる離任式は任意の登校なのだが、全校生徒が登校して離任式に参加した。

「皆さんは1年前、ボクがこの学校に来た2年前に比べて日々成長して大きくなりました。最後に輝いている皆さんの姿を見れて幸せです」と奏は別れの挨拶を始めた。

「これからも毎日を一生懸命に頑張れば、皆さんはもっと大きくなれるし、もっと輝けます」

奏の言葉に落ちぶれた吹奏楽部に名門の輝きを取り戻してきた部員たちや、不登校から救ってもらって吹奏楽の仲間に入って輝けた笑美は胸が熱くなって涙を浮かべていた。

「ボクはこの街が、この学校が、皆さんが大好きです。だからきっとまた会えます。中にはライバルとしてお会いする人たちもいるでしょうけど、皆さんらしく輝いている姿を見せてください」

奏の挨拶が終わると「ありがとう」「またね」等々の歓声と盛大な拍手が起こった。こんな離任式は前代未聞のことであった。

洗濯機と冷蔵庫は愛美にあげたから大きな荷物は殆どなかったので家の近くの営業所で返す契約でレンタカーを借りた。来る時と同じような引っ越しだ。
その日も土砂降りの大雨になってしまった。山道を運転しながら来る時も大雨だったと思い出した。
でも、来る時とは違ってこれは涙雨なのだろうと思った。

異動先の学校は自宅から電車で30分の街にある。この近くの街は車や電車で素通りすることはあっても、ちゃんと歩いたりしたことはなかった。

古びれた田舎の街はどことなく単身赴任先の街に似ている雰囲気もある。
最初のうちは珍しくてたまに安い店に飲みに行ったりもしたが、当然ながら『囲炉裏』もない街で飲むのが空しくなって飲みに行くのはやめて家飲みになっていった。

妻とは相も変わらず家庭内別居だし、星志も部屋にこもって好きなことをしているので、一人でちびちび飲むのは単身赴任と変わらない。ただ愛犬のジョリーが一緒にいてくれるので、それは幸せだった。
ジョリーは肉系の食べ物を狙って催促してくるのだが・・。

ジョリーを見ていると、一生懸命真剣に食べるし、CMにでも使ってもらいたいぐらいに美味しそうないい音を立てて食べるので見ているだけで楽しくなる。



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