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マスタード
第9章 愛ふたたび・・
愛美と陽葵を失った奏は何をしても満たされない虚ろな日々を過ごしていた。

リサを失ってからだってずっと独りで生きてきて、それでも何か楽しかったはずなのに、今度の喪失感は巨大な闇となって奏にのしかかっていた。

もう愛美と陽葵がいなければ生きていけないようになってしまっていたのだろう。
それ程奏の人生において愛美と陽葵は大きな存在であった。

思えばあの街ではラブストーリーが突然にやってきて、突然に去って行った。
人生で最大のラブストーリーはいつもあの街にあった。

そんな寂しい心を埋めるように奏はグルビーズ等のライブイベントに行くようになった。

あのイベントでグルビーズの歌を聴いて以来すっかりその歌にハマってしまて、検索したりしてグルビーズは同じ県内を拠点に活動するアイドルグループであり、奏がフラリと出掛けられる範囲のところでライブやイベントをやっていることが分かったのだ。

グルビーズのアルバムは繰り返し聴いて、カーナビにも録音するほど惚れ込んでいた。
そのアルバムの収録曲に『ひまわり』というバラード曲があった。

『ひまわり』が『ひまり』に聞こえたり、歌詞の内容がまるで愛美や陽葵と過ごした日々のことを歌っているようでもあり、グルビーズの歌の中でも奏のイチオシの曲となった。

『ひまわり』という歌を聞いている時間と空間の中でだけ一緒にいられる気がする愛美や陽葵を求めていたのかも知れない。

グルビーズはお祭りやイベントでの無銭ライブの活動がメインに活躍しているのだが、ウイルス感染も2波、3波、4波と押し寄せる深刻な状況下ではイベントやお祭りの中止も相次いでしまって活動の幅が縮小している傾向にもあった。

地下アイドルにハマってライブとかに出掛けるようになった星志もイベントやお祭りが中止になってライブが少なくなったとぼやいていた。

それでも全くイベントとかがないわけではなく、色んなアイドルや演者が登場するいわゆる対バン形式のイベントもあるので、時には星志と一緒の現場になることもあった。

高校を卒業して働くようになったとはいえそんなにおカネがあるわけではないので、星志は奏が地下アイドルにハマってくれたことを喜んだ。
奏と時間が合う時には車に乗せていってもらえるので、今までは無理だったちょっと遠くの現場にもプチ遠征できるようになったからである。
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