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マスタード
第9章 愛ふたたび・・
グルビーズはB級グルメや名産物の歌がたくさんあるので、相手に合わせてオススメの歌をアピールしていくのが奏の布教活動である。

こんなことを頑張っても何の見返りもないけど、推しさんのことを好きになって、応援してくれる人が増えるのが嬉しいし、推しさんの笑顔が見たいから頑張る。見返りを求めてしか好きな人のために頑張れない恋愛と違って実にプラトニックな愛である。

恋人を失い、妻との間には絶望しかない奏にとっては実に居心地のいい愛の場所である。

蕎麦の歌を動画で見たらマスターはもうメチャメチャグルビーズにハマってしまっていた。
自分もこんなふうにイチコロでファンになったんだと奏は懐かしく思い出していた。

グルビーズは今日この街でイベントがあることを教えてあげると、マスターは昼の部と夜の部の間に行けると大喜びでグルビーズのステージに来ることを宣言した。

こんなふうにファンが増えるのはオタク冥利に尽きるというものである。

グルビーズのステージに少し早乗りしていくと、いつも現場にいる重鎮のオタクたちが早くもやってきていてポールポジションを確保して三脚を立てたりして最善の撮影アングルを確認していた。

グルビーズの現場は動画も静止画も撮影OKでSNSでバンバン拡散してというスタンスなので、こういうオタクたちが動画をアップしてくれるおかげでさっきの蕎麦屋のマスターに教えてあげたようにステージ風景を動画で見ることができる。

アイドルさんや現場によっては撮影は一切禁止、静止画はOKだけど動画は禁止とか、撮影はOKだけどSNS等にアップするのは運営に報告して許可をもらわなければならないとかルールが異なることを他の現場も行くようになって初めて知った。

「来たね~、遠くまでお疲れ様」

「ようこそグルビーズの聖地へ」

奏の姿を見つけると重鎮たちが歓迎してくれた。
特に約束しているワケではなく、現場で会うと喜んでくれたり色々と話したりして、イベントが終わるとまた会おうと去っていく。
この程良い距離感の仲間との関係もまた心地良い。

ステージ直前になって蕎麦屋のマスターもやってきた。マスターは奏や重鎮たちにあいさつすると、実にいいアイドルさんを教えてもらったと奏にお礼を言った。

重鎮たちからも新しい仲間を連れてきてくれたお礼を言われた。こうやって心地よい仲間は増えていく。

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