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マスタード
第9章 愛ふたたび・・
ステージは2回あって、2回とも大いに盛り上がった。

蕎麦屋のマスターは早速蕎麦の歌が入ったCDをゲットして、店で蕎麦の歌を流すと言って運営にも喜ばれていた。さらに店に置くと言ってフライヤーもごっそりと貰っていってくれた。

大変心強い仲間ができたものである。この街でのイベントとかに多く出演する聖地とはいえ、さっきまでのマスターのようにこの街でもグルビーズを知らない人はいっぱいいる。興味ない人には全く知られないのが地下アイドルというものである。
この街での布教活動は安心してマスターに任せられると奏は喜んでいた。

夕食はどこに行こうかと思って奏はビールテイストを飲みながら街を散策してみた。
色々と魅力的な店はある。せっかく来たのだからこの場所ならでわの店に行ってみたい気もする。

でもせっかく仲間になってくれたんだからまたあの蕎麦屋に行ってグルビーズの話題で盛り上がりたいとも思う。

この場所でのステージだから当然の如く2回のステージともにこの湯けむりの街を舞台にした大人の恋の曲が歌われた。

湯けむりの街を歩きながらその歌が頭の中をガンガンと流れている。忘れようと思っても愛美や陽葵のことばかりが頭に浮かんでくる。

「・・・パパ・・・そうちゃんパパ」

聞き慣れた、懐かしい女のコの声がしたので思わず振り向くと陽葵がこちらに向かって駆けてきていた。
もう小学三年生か、少し大人びているけど間違いなく陽葵だ。

「そうちゃんパパ~、会いたかったよ~」

陽葵は泣きながら奏の腕に飛び込んできた。奏も思わず陽葵を受け止めて抱きしめた。

「・・・奏ちゃん、ごめん、あたし・・・」

愛美が青ざめた顔で陽葵に続いて姿を見せた。奏らしき人影に気づいて本当は逃げ出したかったのだが、陽葵も気づいていて、一目散に奏のとこらに駆け寄ってしまったので、逃げるに逃げれなかったのだ。

「ごめんね・・あたし、もう奏ちゃんに会う資格なんてないのに・・・」

愛美は大粒の涙を流して震えていた。
そんな愛美の姿を見て奏は思わず抱きしめた。

「謝らなければならないのはボクの方だよ。大変な時に助けてあげることもできずに、本当にごめん」

奏も涙を流していた。
愛美も陽葵もこうして元気にしていてくれて本当によかったと思う。

少し落ち着くと奏は自分が大それたことをしているのに気がついた。

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