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マスタード
第9章 愛ふたたび・・
今は秀一が遠くの現場に泊りがけで行っていて不在なら今夜にでもまた会って愛美を抱きたい。

そんな思いが沸きあがってきたが、奏はそれを慌てて飲み込んだ。

「実はね、今はオタ活をしてるんだ。この街へ来たのはこの人たちのステージがあるから・・」

そう言って奏はグルビーズのフライヤーを愛美と陽葵に手渡した。
オタクになった自分を知ったら嫌われるかも知れないのも覚悟した。それでもいい、いや、それでいい。会えば今みたいに愛美が欲しい気持ちが抑えられそうもないから・・。
それよりもひまわりの歌やこの街を舞台にした歌を聴いて欲しかった気持ちもある。

「へ~、奏ちゃんがアイドルの追っかけなんてやるんだ。あたしも若い頃はちょっとした追っかけだったんだけどさ・・」

愛美は最初の結婚をするちょっと前に男性アイドルの追っかけをして遠くの街まで遠征とかしていたことをカミングアウトした。

奏は動画でグルビーズの歌を見せてあげた。
ひまわりがひまりに聞こえるし、あの街での愛美と陽葵と奏の3人のことにリンクするひまわりの歌を聴いたら愛美も同じことを感じたみたいで涙を流して感動した。

そしてこの湯けむりの街を舞台にした大人の恋の歌はこうしてまた出会ってしまった奏と愛美のことを歌っているようでもある。

陽葵は実にグルビーズらしくテンポのいいB級グルメの歌が気に入って画面を見ながら嬉しそうに振りコピをしている。

「スゴいねこの人たち・・今、縄跳びダンスとか大ブームだけど、この人たちの方が歌もダンスもスゴいよ。どうして地下のままなんだろうね」

と愛美はグルビーズのステージを見てスゴく感動している。奏も同じことを思っていた。B級グルメや街を舞台にした歌が多いので、どこの街でもファンが多く、この湯けむりの街のように街をあげて応援してお祭りやイベントには必ず呼んでくれたりしているのに、どうして大ブレイクしないのかが不思議なぐらいだ。

そうかと思えばちょっとしたことがきっかけであれよあれよという間に大ブレイクして時の人になったような人もいる。

アイドルとかの世界は本当にままならないし分からないものだと思いながら、リアルな生活もままならないし分からないものだと自分や愛美、陽葵のことを思った。

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