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マスタード
第9章 愛ふたたび・・
明日もグルビーズのステージがあることを教えてあげたら、うまく抜けられそうな時間だから見にくると愛美も陽葵も嬉しそうにしていた。

「では、また・・」
「またね」

別れのあいさつをして店を出ようとすると陽葵が「おしっこしたくなっちゃったからちょっと待ってて」と言って個室を出ていった。

「陽葵ったら、気を遣ってくれたのね。おませさんなんだから・・」

陽葵がくれた僅かなふたりきりの時間で愛美と奏は自然に吸い寄せられるようにキスをして舌を絡ませた。

愛美とのキスの余韻に浸りながらしばし湯けむりの街を歩いて夜風に吹かれた。
この街では日帰り温泉めぐりというのが人気で、浴衣姿のカップルや女友だち同士が連れ立って温泉めぐりをして歩いている姿が多く見られた。
この街は本当はこういう目的で来る所なんだと思いながら夜はどこで飲もうかと温泉街をぶらぶらと歩いた。

結局夜もまたあの蕎麦屋に行ってマスターとグルビーズの話題で盛り上がった。早速BGMにはグルビーズの歌をCDで流している程にハマっていた。

「お疲れ様で~す」と先に店に来ていたグルビーズのオタクの重鎮たちが声をかけてきて一緒に飲もうと近くの席に案内してくれた。
現場でマスターが蕎麦屋をやっていると話していたので重鎮たちも来てみたとのことだ。

現場ではよく話したりするけど、こうして一緒に飲んだりするのは初めてだった。


マスターも参加してグルビーズの話で大いに盛り上がって酒を酌みかわした。
たまにはオタク同士こうして推しさんで盛り上がって飲むのも楽しいのだが、現場には車で移動することが多いので、こういう泊りの遠征でもないとなかなか機会はないものである。
そんなたまにのオタク飲み会は実に楽しいもので、愛美と陽葵と別れてからのアンニュイな気持ちをしばし忘れさせてくれた。

「お疲れ様~」
「また明日もよろしく~」

楽しい飲み会が終わるとオタクたちはそれぞれの旅館に帰っていった。

旅館に戻ると奏は温泉に入って風呂上がりのビールでひとり乾杯した。
体がスゴく火照っている。温泉やアルコールのせいではない。愛美を抱きしめた温もり、キスをした感触がずっと離れないのだ。

推しさんのための旅行だからキレイな体で過ごしたい
と思っていたのだが、この火照った体はどうにも抑えられそうもない。





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