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大人が寝る前に読む物語
第1章 赤ずきん
赤ずきん──後日談───


あれから1年半の年月が流れたある日のこと────

今までの静寂を突き破るほどに大きな赤ん坊の泣き声が
森の中にこだまする


「ハイド…どうしたの…?」

ようやくハイハイが出来るようになり、
動き回るようになった息子のハイド


そうです…
私はあの後、程なくして妊娠している事が分かったのです…


あの日に起こったことをルシアに告げました…
彼は私に酷く罵声を浴びせました。

頬に平手打ちが飛んできて、何度もなじられました…

でも、それは私が悪いことなので
私は何度も彼に謝り続ける事しか出来なかった…


彼の哀しみにくれた深いエメラルドグリーンの瞳を
私は忘れることはないでしょう


アレフともあの日以来、会うことを拒みました…

何度も私を訪ねて来てくれましたが、
私は会うことをしませんでした

アレフは何通も手紙を書いてくれました…
でも、それも私は読むことをしませんでした


このお腹の中に宿った命が
どちらの子供なのか私には自信が無かったから


ただ一つだけ…
私の妊娠をおばぁちゃんから聞いたアレフが送ってくれた御守り…

それだけは肌身離さずに持ち歩いていた



お腹が目立ち始めたある日のこと───

その日は朝から随分と体調も気分も良かった…


「泣いてばかりでは胎教に良くないよ…」

そう言って抱きしめてくれる母に背中を押され、
数カ月ぶりに外に出てみた


燦燦と降り注ぐ太陽の光に目を細める…
森の空気はどこまでも澄んでいて
鳥の囀りが心地よい

足取りも軽く、
小川の畔まで足を運んで、冷たい水を口に含んだ


「美味しい…」

木漏れ日が優しく包み込む昼下がり


立ち上がろうとした瞬間…
濡れた岩に足を取られ、体勢を崩してしまった


「…きゃ……」

咄嗟にお腹を庇い、前から倒れそうになった──
その時……

大きな腕に包まれ、懐かしい匂いに抱かれた



「大丈夫…?」

「……ッッ」

顔を上げられずに俯く私の頭上から降ってきた言ノ葉…

「…会いたかった…」

優しく髪を梳く手、
それが頬に移ると自然と視線が交差した


長いまつ毛に縁取られたアンバーが
涙に濡れている


ああ───
どうしてこんなにもホッとしているんだろう…




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