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大人が寝る前に読む物語
第2章 かぐや姫
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ここは月
静寂の世界

私は今日も地球を見て涙を流す──

一体、何が悲しいのか分からぬままに


大きく膨らんだお腹を抱え、歩き出す

しかし
なぜに私は妊娠しているのだろうか

結婚さえもしていないと言うのに─


誰も私に近寄ろうとしない…
誰も私に教えてはくれない


ただ、この子が愛おしい…
その感情だけは残っていた


この子だけは何としても守らなければ…

地球は青く光っていて…
今日も何だか悲しい…

あそこに何か大切なものがあるような…

でも頭にモヤがかかり何も思い出せない


その時───

「…ッッッ……いた…」


生暖かい体液が太ももを伝い落ちる…

は…破水


慌ただしく始まる分娩
陣痛の感覚が狭まり、痛みの狭間で意識も朦朧としてくる


お腹の子も頑張っている……
その事だけを励みに長い陣痛を耐え忍んでいた


強い陣痛が訪れる度に脳裏に浮かぶ風景…
次第にそれは、はっきりとした記憶となって思い出される


そして───


「ふぎゃぁぁぁ…ふぎゃぁぁぁ……」


愛しい我が子をこの手に抱え、
乳首を含ませる

小さな命は誰に教えられた訳でもないのに
必死で乳を吸い、生きる事に何の迷いも感じられない


あの方との愛の結晶……
あの方も楽しみにしておられた坊や

全ての記憶を思い出させてくれた我が子を
ぎゅっと抱きしめた


穢れた地球人の子を産んだ女───
そんな好奇の目で見られる日々

両親は私を軟禁した…
人目から避けるように屋敷の奥の部屋へ…

ただでなくても地球に流罪になるような娘…
ようやく帰ってきたと思ったら穢れた子を身篭っていたなど
私はなんて親不孝な娘なのだろう…


それでも
私はあの方を愛してしまった

帰ろう
あの方の元へ



私は屋敷を飛び出しては街中で叫んだ

地球へ帰りたいと…
地球は素晴らしいと…
感情を持つことは人生を華やかにすると…

あの方に会いたい…

「会いたい…」

心の叫びのままに涙を流し、毎日のように叫んだ



気が狂った女は地球へ永久流罪
その穢れた子供も同じく永久流罪


姿を変えられなかったのは
この月の世界での最大の温情なのだろうか?



私は気がつくと子を抱いたまま
翁の屋敷で眠っていた───
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