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地味子が官能小説を書いたら
第12章 プロローグ
---------- 【天然色彼女】第一章 放課後の図書館② ----------
せっかく恋する相手が身近にいるのに、僕は何もできないまま、時間だけが過ぎていった。
しかし、その間、僕はただ指をくわえて待っていた訳ではない。
彼女に、それとなく話しかけたり、僕も彼女と同様に小説を書いている事をアピールしたり、カメみたいにゆっくりだけど、少しずつ、僕の事を分かってもらうように努力した。
それでも、中々彼女との距離は縮まらない。
しかし、千歳一隅のチャンスは、突然やってきた。
彼女は放課後、図書館でパソコンを使って小説を書いているという情報を掴んだ僕は、それとなしに図書館へ足を運ぶことが日課になっていた。
いつも、パソコンに向かう彼女を遠くから眺める、そんな日が続いていた。
ところが、ある日、彼女がパソコンを前に固まっている。
何か悩んでいるようだった。
僕は、このチャンスを逃したら、永久に機会は訪れないのではないかと思い、勇気を出して、彼女に話しかけた。
彼女は背もたれに思い切り体重をかけ、天を仰いでいる。
その背中越しに声をかける。心臓が早鐘を打ち、めまいがした。
「初瀬さん、どうしたの。もしかして、途方に暮れてる?」
「あ、井川君。ちょっとね、小説を書いてるのだけど、上手く書けなくて困ってるの」
「へ~、またコンクールにでも応募するの?」
(やった! 導入部分はスムーズに会話に入れた!)
僕は、心の中で小さくガッツポーズを作った。
「え、ええ……まあ……」
「小説投稿サイトのコンクール?」
「どこの?」
ふと見ると、デスクの上に文庫本が数冊置いてある。僕は手を伸ばし、その一冊を読んでみた。
内容は、官能小説だった……
なぜ、純粋で恥じらい多い彼女が、こんな本を?
「え、と。これは……何を書いているの?」
「う、それは」
「もしかして、官能小説とか?」
「ちょっと高めの賞金のコンクールがあって、それに応募しようかな、と思ったんだけど……官能小説部門なのよ」
「そうなんだ、初瀬さんって、何度か賞を取ったことあるよね。今回も何らかの賞が取れるんじゃない」
僕は、この日のために何度も鏡の前で練習した、とびっきりの笑顔を作って彼女に見せた。