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地味子が官能小説を書いたら
第12章 プロローグ
小説は、今までに私たちの間で起こったことが書かれていた。

健吾が、花梨とキスをして、その先も進めようと焦って花梨を泣かせたこと。
花梨に好かれようとイメチェンしたこと。
花梨になかなか謝れずに、悶々と過ごしたこと。

花梨になかなか好きと伝えられなかったこと。


全て私が体験したことを鏡に映したような内容だった。

(ずっと……文剛君はわたしのことが好きだったんだ……)


ブルっと、私の中で何かが震える。

もう、抑えが効かなかった。



今すぐ、文剛に会いたい。




「花音ちゃん、大丈夫?」

「え……と、小机君、ごめんなさい、どこか駅で降ろしてもらえますか?」

「行くんだね、その、好きな人の所へ」

返事の代わりに、コクリと頷く私。


「どこまで行くの?」

「吉祥寺まで……」

「そうか、だったら、ここからだと立川が近いかな」

そう言うと、弁岳は車の方向を変えた。

「ごめんなさい、わたし、勝手な事ばかり……」

「ううん、最後くらい、役に立たせてよ」

「僕、初めて女の子に告白したんだ……結果は見事な惨敗だったけど 笑」

「小机君……」

申し訳ない気持ちでいっぱいになる。弁岳もまた、私にたくさん尽くしてくれた。

「でも、分かったんだよ、人を好きになることが、どれだけ励みになるか、どれだけ人生をカラフルにしてくれるか」

「今まで、恋愛なんて必要ないと思っていたけど、考えが変わった」

「また、花音ちゃんみたいな素敵な女の子を見つけて、恋をしたいと思う」

「うん、小机君なら、きっと良い人が見つかると思う」

「ありがとう、花音ちゃん」

ほどなくして、車は立川駅に着いた。ここから中央線に乗れば一本で吉祥寺まで行ける。

車が止まると、弁岳はいつものように助手席のドアを開けて、私を降ろしてくれた。


「小机君、ありがとう……元気で」

私は、右手を差し出した。

「花音ちゃん、フった男に友情の握手は、酷だよ 笑」

「ええ~、そうなの? ごめんなさい」

「冗談だよ、本当に、今までありがとう、楽しかった」

弁岳は、そう言って私の手を握り返してくれた。

「ここを上って行けば、改札に行けると思う」


「うん、さよなら」

「さよなら」


私は階段を駆け上った。改札へ向かう途中、下を振り返ると、弁岳は小さく手を振っていた。




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