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化け物
第1章 化け物
 姉が消えてしまったのは、お腹の中の赤ちゃんを産んでから1ヶ月も経たないうちだった。


 夫が仕事に出掛けているあいだに、姉は少しの衣類や化粧品だけを持って、家の鍵と判を押した離婚届と、生まれたばかりの赤ちゃんを置いて、姿を消してしまった。


 姉が全てを捨てて新しいの人生を歩み始めたのだという悲しい事実を夫が受け入れたのは、姉の失踪から3ヶ月経った頃だった。


 夫は男手一つで赤ちゃんを育てる気概も気力も残っていなかった。
 だから、妻の両親…わたしの両親のところに赤ちゃんを連れてきたのだ。
 しかし、両親はにこやかに、ハッキリと言った。



「化け物の世話は息子だけでじゅうぶんです」



 あの日、姉の夫は今度こそ化け物を見ただろう。



 あやしてもらえる気配もないせいで、不幸な化け物はくしゃくしゃになった真っ赤な顔で大きく口を開けて、必死で泣いていた。誰かに応えてもらえるように、必死に、大きな声で、ずっと。

 
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