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化け物
第1章 化け物
 聡が少年院から退院したのは、お姉ちゃんが全てを捨てて消えてしまってからしばらく経った頃だった。



 「お姉ちゃんにはもう、2度と会えないよ」



 お父さんに引き取られ帰宅した聡に、お母さんは背を丸めたまま力なくそう言った。



 わたしが知らない間に聡の背は随分伸びて、がっしりした身体つきで俯く聡の横顔はまるで、知らない男の人のようだった。



 聡は黙ってた。



 お父さんは、虚ろな目をして俯いている聡の肩をしっかり抱きながら、



「いいや、いつかきっと会えるよ」



 と無責任な慰めの言葉をかけていた。
 


 わたしはあまりにも聡が不憫でたまらなくて、父親と同じようにその場しのぎの慰めを言えたらどんなにいいかと思った。
 しかし、これ以上聡の傷付く顔を観たくなかったから、聡をきつく抱き締めて言った。



「ううん、もう二度と会えないよ」



 わたしは聡の胸にシャツの上からキスをした。
 聡の身体はいつの間にか硬くゴツゴツした男の身体になっていた。



「お姉ちゃんは結婚式のとき、聡のことを死んだ弟って言ったんだよ」



 そう言った瞬間、聡の身体がギュッと強張ったのが腕に伝わった。
 しかしすぐに緩み、聡の瞳から涙がひとつ落ちた。
 私の目からはとっくに、顔中が濡れるほどの涙が溢れていた。  



「お姉ちゃんは二度と帰ってこないよ。自分の産んだ赤ちゃんすらも置いてっちゃったんだもん、聡に会いに来るわけないよ」



 聡は本当に姉のことを愛していたのに。
 この瞬間すべてを知ったのだ。



 堰を切ったように声を上げて泣き出した聡が、あまりにも不憫だった。

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