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化け物
第1章 化け物
「さとし」



 戸口から、名前を呼ぶ。
 力なく椅子に座っている聡が、ゆっくり顔を上げた。
 


 周りを見渡している彼の名前を、もう一度呼ぶ。
 やっと聡はわたしのほうを見た。
 虚ろな眼差しがわたしの姿を捉え…。
 そしてすぐ、驚いたように見開いた。 


 突然聡が立ち上がった。
 椅子が倒れる。
 驚いた拍子に父親が尻もちをついた。
 母親は俯いたまま振り向きもしない。


 聡がわたしの名前を呼んでる。
 

 ボサボサ頭の、入院中誰も剃ってくれなかったせいか、無精髭が伸びてる聡。

 いつの間にかわたしよりうんと背が伸びて、体格が良くなった聡。
 わたしの知らない男の人みたいになってしまった聡。
 
 わたしを力強く抱き締めて、子供みたいに声を上げて泣く聡。
 化け物になってしまった、わたしの双子の弟。



「なに泣いてんの。聡にはお姉ちゃんが…わたしがいるでしょ?」



 可哀相な聡。
 わたしの命の片割れ。


 
 わたしの心臓。


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