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ハニードロップ
第5章 人生のゴール
『別れてください』
付き合って3年目の春、淡々とそう言った私に望月さんは目を丸くしていた。その前から少しずつ距離を置き始めていたから、別れたいと思っていることに気付かれているかと思っていたけれど、そうではなかったらしい。
『なんで?結婚しないから?』
『いえ、違います』
『じゃあ何?他に好きな奴できた?』
まず私の浮気を疑う彼に、心底嫌になった。私は私の気持ちにケジメをつけて、一つずつ整理していったのだ。望月さんを好きな気持ちを。もちろん他に好きな人も彼氏もいなかった。
『私が別れたいと思ってたの、少しも気付きませんでした?』
未だ戸惑ったような顔をしている望月さんは、本当に気付いていなかったのだろう。もう吹っ切れてしまっている私はもう、望月さんに腕を掴まれても何とも思えなかった。簡単に振り払えた。
『これからは、上司と部下としてよろしくお願いします』
それから何度か復縁を言われたことはある。彼が課長に昇進した時。彼に見合い話が出た時。もちろん断ったけれど。
冷静になった今思うのだ。私は彼と本当に結婚したかったわけではない。好きだった。大好きだった。でも、ただの幼稚な独占欲。もし結婚していても案外終わりはすぐに来ていたと思う。死ぬ時に彼に隣にいてほしいなんて、そんな非現実的なこと考えられなかったから。
「何かあったんですか?」
「え?」
「望月さんが私にヨリ戻したいって言ってくる時は大抵何かあるから」
「何もないよ。ただ、最近お前めちゃくちゃ綺麗になったから」
声を出して笑いそうになった。もしも私が綺麗になったのだとしたら、あの人のおかげだ。いつも私を可愛い可愛いと世界に一人だけのお姫様みたいに扱ってくれる、あの人の。
「察してください」
私にはもう、自分より大切にしたいと思える人がいるんだから。