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イキ狂う敏腕社長秘書
第9章 【孤独の先にあるもの】
きっと社長と行動し過ぎね。
それは仕方ないことだけどもっと愛想良くした方が良いかな、こりゃ。
だからって訳じゃないけれど、あの日、急いでいた私に声を掛けてくれたキミに恋をさせてしまったのは決して落ち度なんかじゃないって言い切れるよ。
偶然は後から必然へと意味を塗り替えていく。
「あの…!落としましたよ!」
背後からそう声がして脚は止まり、勢いよく振り返った。
眩しいほどの青い制服。
白い手袋に持たれた私の万年筆。
あっ……胸ポケットから落ちた!?
気付かなかった。
外に待たせてある車に乗り込もうと走っていた。
いつも余裕を持って行動するのだが、先方が時間を伝え間違いしていたお陰で予定が前倒しになったからだ。
彼の元へ脚を進め、万年筆を受け取る。
「ありがとうございます」
たった一言交わしただけのファーストコンタクト。
「お気をつけて行ってらっしゃいませ」
帽子のツバに手を添えて礼儀正しいお辞儀。
彼のことは全く知らない訳ではなかった。
けど、最近入った人なのかな。
午後からの勤務が多いと思う。
若いからきっと大学生かも。
アルバイトかも知れない。
初めてちゃんと目を合わせてお話したかも。
彼は我が社で働いてもらっている警備員だ。
名前はまだ知らない。
そんな彼と接点を持つことなど考えもしなかった。
退社時刻になって、疲れも溜まっているし家に帰ってゆっくり休もうと思っていた矢先。
一階フロアで次々と退社していく社員たちが社員証をかざし通り過ぎて行く。
「ではお先に失礼します、お疲れ様でした」
急に管理室から出てきた彼とバッチリ目が合った。
2回目だ。
無視など出来ず会釈する。
「お疲れ様です!」
お、元気が良いね。新鮮。
自然と笑みがこぼれる。
「お疲れ様、この前はどうも。結構大事にしてた万年筆だったから助かりました」
制服を着ていない彼はやっぱりまだあどけなくて若いな。
クシャッと笑ったら顔に出来るシワが凄く可愛いなと思った。
笑うとこんな顔するんだ、モテるだろうな。