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夏の終わりに
第17章 咆哮
荷物が部屋にあることなど、千里が戻ってくる理由にはならない。
その気になれば、身ひとつあれば姿を消せる。

その可能性に気づいて、浩人の鼓動が速くなっていく。


千里を失う。


そう思うだけで、崖っぷちに足を踏み出すような恐怖が湧きあがってくる。

張り詰めていく不安に背中を押されるように、浩人は玄関へ向かった。


迎えに行って、土下座でも何でもするつもりだった。

許してもらえなくても、構わない。
むしろ許さないで欲しい。心底憎んで欲しい。

千里の体を貫き、縛りつけるべきだ。そうすれば、千里はどこへも行けない。一生捕らわれたまま、自分から離れられない。
そんな凶暴な考えに支配されている人間など、警戒し、嫌悪し続けて当然だ。

触るなと言うのなら、触らない。
自由を奪ったりもしない。
どんな苦渋も舐めてみせる。

だから、傍にいさせて欲しかった。
逃げないで欲しかった。
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