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夏の終わりに
第8章 白紙 ①
リビングに入ると、千里が少し驚いたように振り返り、すぐにふんわりと口許を綻ばせた。
その笑顔が眩しくて、浩人は顔を逸らす。息苦しさに心が悲鳴をあげている。

「おはよう」

「……おはよ」

絞り出した声は酷く不機嫌そうで、浩人は眉をしかめた。今の態度が千里を傷つけている自覚があるから、怖くて顔を上げることも出来ない。

朝刊を見つけ、誤魔化すためだけにそれを手に取って広げる。ガサリと荒っぽい音が響き、また後悔した。
見出しさえ頭に入りそうにない。意識が宙をさ迷い、今の浩人に出来るのは息を潜めることだけだった。


罪悪感が止めどなく積もっていく。その重さに心が押し潰されそうなのに、一方で、満たされたくて、千里が欲しくて堪らない。
昨夜のあれでは足りない。足りるはずがない。
更に強い飢餓感に襲われて体がずきずきと痛む。
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