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夏の終わりに
第8章 白紙 ①
「…………ぃの」

か細い声がして、浩人ははっと顔を上げる。
千里は箸を完全に置いてしまい、膝の上で小さく拳を作っていた。

「…やり直せない、かな。……最初から、」

心臓が痛いくらいにドクンと鳴り響く。緊張で血が上手く回らなくて、浩人は意識が定まらなくなり始めていた。

「何もなかったことにして、あの日…から、始めたいの」

「…なに、言って……」

出来るはずがない。


四年前に自分がしたことは、記憶の中でじくじくと膿んで、心を蝕む続けている。仮に傷が癒えたとしても、えぐられた穴が塞がれることもなければ、腐蝕が止まることもない。
今更、何も起こらなかったまっさらな状態に戻して、そこからやり直すなど出来るはずがないのだ。

それなのに千里は、一縷の望みにすがりつくように浩人を見つめていた。
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