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想い想われ歪なカタチ
第8章 8
「メイドの分際で、俺のことを呼び捨てにするなんて、なんて悪いんだ、この口は。
 俺のことはご主人様と呼べと、何度言ったらわかるんだ?」

その間もふにふにと、私のほっぺを抓る。

「ふにゃっ・・にゃにほ・、誰があんひゃなんか、呼ぶもんでふかっ・・っ!んもぉっ!!」

頭を激しく振って、いたずらにほっぺを抓る流牙の手を振り払う。

「早くこの手を解いてって言ってるでしょ!ばか流牙っ!このヘンタイっ!!
 私にはこんな趣味ないんだからっっ・・!」

手を頭上で拘束されながらも、身を捩って流牙から少しでも身を遠ざけようとする私に
ひらりと、その長身に重力を感じさせない身のこなしで流牙は覆いかぶさった。

「果たして本当かなーぁ、それにしても口が悪すぎるぞ、伊吹。いいか?
 絶対、何が何でも、俺を『ご主人様』と呼ばせてみせるから、な?」

軽い口調のようで強い断言の響きを含んだ声は、私の敏感な耳元で囁かれた。
生暖かいと息が鼓膜をくすぐって、私はビクンと身をひねらせる。

「なっ!・やっ・・ んじゃ私はっ!何が何でも絶対にっ!
 あんたなんかをそんな風に呼ぶもんですかっ!!」

流牙は今までに何度も、自分を『ご主人様』と呼ばせようと、私に強要してきていた。
もちろん、もともと自分の下僕だったヤツにそんなふうに呼ぶ気は毛頭ない私は
その度に、拒絶してきたのだけど・・・。
今日の流牙は何やらたっぷりと毒気を含んで、嫌に自信満々だ。
おまけに、この手の束縛。絶対何か、恐ろしいこと企んでいる。
毅然とした態度で声を張り上げたものの、頬の紅潮と胸の不自然な高鳴りは抑えきれない。
頭上の手の拘束を忌々しく引っぱったが、ちっともそれが解ける様子は無かった。

「くっく、それでこそ伊吹だよなー。俺としても簡単に従ってもらっちゃあ面白くともなんともない。
 今夜はすごく、長く楽しめそうだな」
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