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想い想われ歪なカタチ
第6章 6
「いくら待っても、迎えに来てくれないって そう言いたいんだろ?先生。
 言っとくけど俺、そんなの、とっくに知ってるよ。
 母が、俺を捨てたってことぐらい、とっくに知ってる」


「・・・でも、もし―――、もしも だよ、先生。
 ひょっとして母の気が変わったら・・・
 俺を迎えに来てくれるかも知れないだろ?
 そしたら、俺がここに居ないと、俺が何処にいるかわかんないだろ?
 母さんは、ここで待っていてくれって言ったんだ。
 もし、母さんが俺を迎えに来たとき、俺がここにいないと悲しむだろ?」


「・・・先生、なんであんたが泣くんだ」


「やめろよ。そんな目で見るな。

 俺はそんな可哀想な奴じゃない」



__________




 舌打ちして唇を噛む。

やめてくれ。
もうずっと昔の 過去のことだ。


遠い声を打ち消すように強く首を振った。
ゴウッと音を立てて、身体の奥の骨まで凍りつかせるような風が
一瞬吹き荒れて ぴたりと止まった。

ふと 空を仰ぎ見る。

ああ、やっぱり降ってきやがった。

白い、白い雪の結晶。
風に舞って、くるくる回って 振り落ちる。
古びた街灯の光に照らし出されて踊り狂う雪の姿が
目を閉じても瞼の裏を白くを覆い尽くす。
どーりで寒い筈だ。雪が降るんじゃぁ・・・気温は摂氏零度に限りなく近いだろう。
頭上の遥か彼方の空の上ではなおさら。
ガキのくせして理屈っぽいこと考えてたなぁ、俺は。

 何から何まで再現させられる。
空から地上へ 吹き降ろす冷たい風はあの日と同じ。この胸の中でも荒れ狂っている。
それ以外、何も無い空洞。

何故なんだ。
なぜ俺は、またこんな あの日と同じような・・・捨てられた日と、それでも待っていた日々と
同じような気持ちになっているんだ。

幾重にも降り積もる、白い小さな結晶の群れの向こうに
見覚えのある施設の明かりが見えた。
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