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誘蛾灯
第4章 転落危険
 炊事に関しては朝食は初巳の部屋で作った物を配膳するだけで台所への立ち入りは禁止になった。美世子に言わせると台所は正妻の聖域なんだそうだ。そして夕飯は美世子の担当になる。婚約して式の日取りまで決まってるんだから通いではなく一緒に住めばいいのにと思うのだが式をあげるまでは両親との時間を大切にしたいと言われては強くも出れない。
 芳子を家政婦として置く事にした翌日。俺は朝からとあるビルを訪ねていた。10軒以上のテナントが入ってる雑居ビルだがその中で一際異彩を放っているのが「三神愛美探偵事務所」だった。ここには毒を飲まされて身体が縮んだり、有名なジッチャンの名にかけて謎解きさるようなスタッフこそ居ないがかなり有能な探偵社で浮気の身辺調査や失踪人探索させれば業界でもピカイチとの噂だ。
 昨夜アポを取っておいたので俺はすんなりと所長室に通された。
 「お久し振りです。西東様。」
 出迎えてくれたのは四十路の美女だった。名前を三神愛美さんという。ひょんな縁で知り合って仲良くして貰っている。誤解の無いように言っておくが彼女とは肉体関係は皆無だ。女と見れば見境無しの俺だがご主人様持ちの奴隷に手を出す程無謀ではない。しかも彼女のご主人様は十人近い奴隷を多頭飼いしているこの世界での有名人だ。触らぬ神に祟りなしだ。
 「お忙しいのに時間を作って頂きありがとうございます。」
 短い社交辞令を交わすと所長は単刀直入に話を切り出してきた。
 「ご依頼内容は人探しでしたね。」
 人探し。そう、俺は芳子の亭主を探し出す事にしたのだ。
 芳子を飼っていても実質俺には一文も入ってこない。数字の上だけで芳子の借金が五年かけて消えていくだけだ。元はキャバ孃から貢がせた泡銭だ。無くなって惜しい金ではないが取り返せるならそれに越した事はない。そこで、元凶からお金を頂こうというわけだ。どうせ現金は持ってないだろうから鮪漁船かどっかの蛸部屋に売り飛ばすつもりだ。死んだら死んだで眼球から五臓六腑まで買いたいというブローカーに渡りはつけてあるのでよっぽど病気でガタガタでない限り数百万円にはなる。相手の女は芳子にした脅しではないがお風呂屋さんででも働いてしっかり稼いでもらおう。
 仕事内容を伝えると所長は電卓を叩く。
 「諸経費別でブローカーの紹介料込みで成功報酬これでどうでしょう。」
 
 
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