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誘蛾灯
第5章 語るな危険
 ウ~ン。困った。この母娘、手離すのが惜しくなってきた。どうしたものかな。
 運ばれてきた量が多くて安くてたいして美味くない飯を三人で平らげると店を後にする。
 店を出た所でおれは二人に手作りの名刺を渡す。薄い黄色の紙面には便女に入る刺青と同じ意匠の花文字の「K」と携帯番号だけが書いてある。記載してあるのはキャバ嬢に名前を借りて作ったプリペイド携帯の番号だ。便女候補の女との連絡用に使っている。一人の便女候補生に一台使い便女に出来ても失敗してもその都度物理的に破棄して新しい携帯を手に入れる。手当たり次第に女と見れば手を出しているのだ。後ろにヤバい世界の住人が居る可能性がないとは言えない。その時の用心だ。
 気が向いたら連絡しろとだけ言って二人をタクシーに乗せると運転手に諭吉を握らせて車を出させた。

 二日後スマホやホテルから持ち帰った映像データをパソコンに取り込んで作ったアルバムや動画を大画面で楽しんでいると聞きなれない電子音が響いた。プリペイド携帯だ。画面には「美江」と表示されている。さあ、鬼が出るか蛇が出るか。
 「もしもし。Kさんですか?」
 受話器から聞こえてきたのはさっきまで画面の中から聞こえてきていた喘ぎ声と同じものだった。
 「美江か。どうした。俺のチンポが恋しくなったか?」
 別れてから二日。とっくに催淫は解けている。正気に戻った人妻に言って許される言葉ではない。暫く無言が続く。これは脈なしかな?勇気を出して電話したもののいきなり卑猥な事を言われて気持ちが冷めてそれっきりとなった候補生は少なくない。いや、殆どと言っていいだろう。今回も駄目かと通話を切ろうとしたが
 「Kさんのチンポが忘れられないの。」
 聞こえてきた艶っぽい声に思わず口笛を吹きそうになる。
 「あれから亭主とは寝たのか?」
 「寝てません。あの人私と夢華に何があったのか全く気付かないでノホホンとしてるの。普通妻がいつもと違う石鹸の匂いさせて帰ってきたら不審がるでしょ?」
 美江の愚痴は30分にも及んだが俺は「そうか、そうか」と相槌を打ちながら聞いてやる。散散っぱら亭主の悪口を言って落ち着いたのだろう。少しの沈黙を置いて
 「逢いたい」
 と呟いてきた。
 「亭主は何してる?」
 「パチンコに行ってるわ。折角の連休なのに何処にも連れてってもくれないで。」
 
 

 
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