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誘蛾灯
第1章 触れるな危険
 実験相手は当然芳子だ。
 「芳子姉ちゃん。ごめんなさい。」
 深々と頭を下げる。
 「色んな事があって頭が混乱してて酷い事言っちゃった。許してください。本当にごめんなさい。」
 頭を下げ芳子の顔を見ないようにしながらこれでダメなら土下座でもするか、と対策を考える。
 「謝らないで。」
 よし!土下座回避だ!
 「悪かったのは私なんだから。私がしっかりしてればあんな事にならなかったのに。」
 よしよし、そのまま罪悪感に押し潰されろ。
 詫びの言葉を続ける芳子に助け船を出してやる。
 「忘れようよ。一緒にうたた寝して変な夢を見た。今日あった出来事はそれだけ。そうしようよ。俺のせいで芳子姉ちゃんの結婚がおかしな事になったりしたら嫌だよ。だから、ね?」
 これは親切に見せ掛けた脅迫だ。元の生活に戻るならこの案に乗るのが一番の近道だ。
 「1、2、3!」
 数をかぞえながら歩く。
 「俺のアダ名チキンっていうんだ。鶏と一緒で三歩歩いたら前の事忘れちゃうから。ほら、もう忘れた。」
 おどけて笑うとやっと芳子の表情が柔らかくなる。
 さあ、実験開始だ。
 右手を差し出す。
 「仲直りの握手!」
 芳子の手が俺の手を握る。
 「これで仲直り。いいよね?芳子姉ちゃん」
 話し掛けながらも頭の中では秒を数えてる。
 1、2、3、
 そして5数えた頃芳子の表情に変化が現れる。ここまでだ。手を離すと芳子の顔から欲情の色は消えていた。実験成功だ。

 家に戻ると父ちゃんにこっぴどく叱られたがお爺ちゃんや伯父ちゃん達は生暖かい目で俺を見ている。
 「その辺にしとけ。翔琉も初恋の人が結婚するって聞いて動揺したんだろうさ。」
 げ!もしかして俺の恋心バレバレだったの?
 お爺ちゃんの仲裁に真っ赤になってしまう。
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