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誘蛾灯
第4章 転落危険
 この雑誌の目玉は夜の蝶達の赤裸々な性体験の告白リポートと際どいヌード写真だ。なにしろ一流店のNo.1キャバ嬢が初恋から初体験、しまいには咥えてきたチンポの数まで話しているのだ。売れないわけがない。
 名刺には載ってないが実質俺はこの雑誌の責任者だ。なにしろ俺には特殊能力がある。取材開始前に握手さえすれば股を濡らした女はなんでも話してくれる。インタビューが終われば一発楽しんで小遣い貰ってさようなら。実に楽な仕事だ。キャバ嬢から貰う小遣いだけで年に1000万円を越える収入だ。これは税務署にばれないようにキャバ嬢に自分名義の通帳を作らせてそこに預けさせてその通帳とカードは俺が回収するという方法で手に入れている。なにしろ一口座せいぜい10万円の小口だ。ばれる恐れはない。
 出版社の社員という社会的立場と安定した収入を手に入れた俺は二十歳を前に美世子と婚約した。同時に美世子、初巳、咲子の三人の奴隷契約を破棄した。これで美世子は婚約者、後の妻となり、初巳と咲子は愛人になった。そう、呼称が変わっただけで実質何の変化もないのだ。
 変わったと言えば俺は引っ越しした。場所は14階建ての高級マンションの最上階。なんの事はない。咲子の隣の部屋だ。咲子もいい年だし警部補になったしと父親がマンションの権利を譲ってくれたそうだ。まあ、三十路の女つかまえて独り暮らししろはないだろうと母親からどやされたらしい。で、14階に8部屋在る内の二部屋は咲子が後一部屋づつ俺と初巳が使う事になった。無論家賃はタダだ。美世子は実家から通ってきてるがいずれは俺と一緒に住むことになる。
 そんな俺の部屋のインターフォンが鳴ったのは結婚式を半年後に控えた二十歳の春の夜の事だった。モニターに映った顔に心拍が早くなる。
 「芳子姉ちゃん。」
 そこからは少し舞い上がってしまってどういう手順で招き入れたのか全く覚えていないが今、初恋の人がソファーに腰掛けて俺の煎れたインスタント珈琲を飲んでいる。そう、初恋。そして俺の筆下ろしの相手だ。
 「芳子姉ちゃん、痩せた?」
 思わず出た問いに姉ちゃんは苦笑いするだけだ。痩せたと言うよりか窶れたと言う方が的を射てる。明るく活発なイメージはすっかり失せて生活に疲れきった老婆のようだ。
 「何かあったの?」
 出来るだけ落ち着いた声を出そうと努力したが上擦ってしまった問いに肩が揺れる。
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