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理想というまやかし
第4章 哀傷の姫
「お母さんね、本当に何も知らなかった。親として恥ずかしい。りとに聞いてビックリしたし、悲しかった。真麻が何も話してくれなかったことも、私の身勝手のせいで、何より大事な娘を酷い目に遭わせていたことも。居所の分かる男もいる、私は彼らを引きずり出して、一緒に警察へ行く」
「気にしないで。それで私の高校時代や今までが戻ってくるわけじゃない。恋に夢を持ったり、好きかどうかよりも守ってくれる人を探すことで頭がいっぱいの、お母さんから逃げたかったあの頃がなかったことになるわけじゃない」
「ごめんね。そうして真麻の大切な時期を台なしにしたのは、私ね。私が償わなくちゃね」
「お母さんは、本当に私が大事なの?」
「大事に決まってるじゃない。真麻ほど愛してきた子なんていないでしょ」
「娘の同期にまで手を出して、それでも私が大事なの?」
「真麻、未沙さんを信じて。それは彼女は酷いし、お父さんがいたなんて、私にも隠しちゃったくらいの人だけど……」
「…………」
「真麻のことは、本当に楽しそうに話してたよ。娘がいるって。いつも君の帰りを待ってたよ」
分かっている。
未沙がどう償っても真麻が無知で幸せな少女に戻れないように、真麻が聞く耳を持たなかったところで、未沙は真麻を愛していると言い続ける。
ただ一言、恋人達より誰よりも、真麻を好きだという未沙の言葉が欲しかった。傷ついた真麻を恋仇として忌むのではなく、痛みを分かって欲しかった。
未沙が許せないのではない。彼女の連れてきた男達がどこかで平然と生き続けている事実を思うと、ぞっとするのだ。
りとが何も知らなかったのは信じるしかない。彼女が真麻を好きだと言ってくれた気持ちも、疑いたくない。
りとが未沙に近づいた頃、真麻は愛乃しか見ていたくなかった。不義を憎んで、りとの優しさに寄りかかったが最後、自分も未沙と同じになると思うとおぞましかった。そんな真麻の警戒心が、きっとりとを追い詰めていた。