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理想というまやかし
第2章 憂いの皇子
可愛い感じの皇子様、と称えられがちな容姿を少しクールに演出するためのスーツから、着慣れたカジュアルな装いに戻ったりとは、酒臭い乗客達に混じって家路に着いた。
さっきまでいた浮かれた街とは随分違う。生まれ育った地元を離れて、大学卒業を機に越してきたマンションは、周りが静かで眠りやすいのが売りだった。売りだった、というのは過去の話で、実際に部屋に入ってみると、静かなのは建物の外だけだということがすぐに分かった。
コンビニエンスストアが途中に二軒ある細道を抜けて、田畑の広がる道に出る。すぐそこのマンションを見上げると、今夜も明かりがついていた。
ベランダには肉感的な女が一人。目を凝らすと、中からいかつい体格の男も出てきた。
男は女の全裸に数本の縄を這わせていき、鉄製の洗濯竿に吊り上げたのち、太ももを両手で抱えさせて固定するという寝狸縛りを完成させた。男は長い指示棒のようなもので女の全身をくすぐって、女が嬉しげに腰を振ると、「あばずれがっ!」と女の尻を激しく打った。露出した女の性器が濡れているのは、遠目にも分かる。
今夜も、あの音を聞かされる。あの声を。
りとの隣に住むカップルが派手な性交をするのは、度々あることだった。男の方が、声からして微妙に別人の気はするが、一夫一婦制の現代で、きっとりとの思い過ごしだ。
安眠出来るマンションは、寝台のスプリングや玩具の音、女の鳴き叫び声や理性をなくした男の咆哮が常に壁を突き抜けてくる物件だった。