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理想というまやかし
第2章 憂いの皇子
* * * * * * *
むかつきが胃を占拠して、食欲が出ない。しかし何か飲まなければ午後からの接客に差し障る。
休憩時間、りとがチョコミントフレーバーのロイヤルミルクティーを飲んでいると、白いフリルのエプロンを外した真麻が、ローテーブルの向かい側でピンク色の巾着袋の中身を出して蓋を開けた。いただきます、と、周りにはりとしかいないのに、律儀に両手を合わせた彼女は、さっそく弁当に手をつける。
「相変わらず上手いね」
「お弁当?」
「毎日凝ってる」
「愛乃が作ってくれるんだ。夕方までは時間あるんだって。りとは、まさかそれだけ?」
食欲ないから、と答えると、意外にも真麻が心配そうな顔を見せた。その上、体調が悪いのだと誤解した彼女は、早上がりすればと勧めてくる。ポテトサラダならさっぱりしてるから食べられるかも、と付け足して。
「違うよ。気分悪いもの見せられて。気持ち悪い」
「例のお隣さん?」
「そう。毎晩人の濡れ場見て、見なくて済んでも聴かされて。ビアンなら五月蝿いなぁくらいだったんだろうけど、男はマジ無──…ごめん」
「ううん。私も無理だし」
失言を気にしかけたりとに、間髪入れず、真麻が否定した。
真麻のファーストキスの相手は男だ。初めて身体を許したのも男だという。本人の意思ではなかったにしても、その時点で個人に失望しても、男を一括りに見限らなかった彼女は、愛乃と出逢わなければヘテロセクシャルになっていたかも知れないと、りとにいつか話していた。