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理想というまやかし
第2章 憂いの皇子

* * * * * * *

 他のスタッフ達との親睦を図れる初めての場は、春の新人歓迎会だった。

 それまで真麻とは研修で一緒になることはあっても、同い歳とも知らなかったくらい、互いに言葉を発するまでの躊躇があった。

 自己紹介して、ベテランスタッフ達にほど良く酒も入ってきて、彼女らの冗談に手を叩いたり質問に答えたりしている内に、りとはキッチン担当で入った同期に親しみを感じるようになっていった。真麻の方も同じだったようで、あまり積極的なタイプではないのだろう、内弁慶特有の性質が現れたとでも言うべきか、初めはりとが一方的に話しかけていたところ、安心したらしい彼女はその日の内に饒舌になった。きっと彼女の酔いが回ったのもあって、歌手を目指す恋人と同棲していることやこの店に入った動機、学生時代の性被害に至るまで、りとは初対面も同然の間柄の女の子から聞く至りとなった。


 それから一ヶ月と少しが経ち、繁忙期のゴールデンウィークはほぼ毎日、シフトが被った。


 最終日の一日前、りとは明日夕飯でも行かないかと真麻に声をかけた。
 その頃になると彼女とはもう間違いなく友人と呼べるほど親しかったし、ロリィタファッションにしか興味のなさそうに見える彼女が、学生時分はアルバイト先の後輩とライブハウスへ出かけたりしていたのは聞いていた。


「ごめん、明日は……」

「急だもんね。了解。じゃあまた今度」

「うん」

「あ、大体いつが空いてる?」

「あの、あのね」


 真麻は、誘いを遠回しに断るタイプに見えなかった。

 りとが具体的な日時を決めたがると、観念した風に彼女は続けた。
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