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理想というまやかし
第2章 憂いの皇子
「愛乃が心配するから。彼女と交際を始めてから、誰とも出かけないことにしたの」
「わー……そうなんだ。……誓って口説かない、って、愛乃さんに直接交渉してもダメ?」
「お互いこういう仕事だから。少しの時間でも、一緒にいられる時はいたいって、愛乃が言ってくれてるから……」
交際七ヶ月だという。まだまだ初々しい時期なのだ、と、その時はりとも納得した。
休憩時間、真麻はいつもスマートフォンをタップしている。デパ地下に並んでいてもしっくりくる凝った惣菜が所狭しと詰め込まれたお弁当を口にしながら、たまに電話がかかってきて、職場では聞かない音色の甘ったるい声で話す。
自慰でも始めかねない目で電話口に囁いて、口許を緩めてLINEの返信をする真麻を見ていると、羨ましい……そんな感情が、ある時、りとの胸裏を掠めていった。
これだけ誰かに傾倒して、これだけ幸せな顔をさせてやれる愛乃という女が、羨ましい。
ねっとりとした繊維が心の底に絡みつく、モヤモヤした羨望が、限りなく嫉妬に近いのだと自覚するまで、さして時間はかからなかった。
「りと、今、手空いてる?」
「空いてるよ」
「写真撮ってくれないかな?愛乃が見たいって」
ある時、真麻がこんな頼み事を持ちかけてきた。愛乃が、彼女の手製のお弁当を食べている真麻を見たがっているという。
「浮気してないかの、アリバイ確認だったりして」
「私、そんな疑われるようなことしてないもん」
「あと5分で内田さん休憩入るみたいだったから、何なら私と一緒に写る?」
「意地悪っ!だいたい、私、浮気なんて大嫌い。絶対しない」