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理想というまやかし
第2章 憂いの皇子





 真麻が得意料理だというホットケーキは、パッケージの裏面さえしっかり読めば、多分、真麻でなくても誰にでも作れる。その誰にでも作れるだろうホットケーキが焼き上がるまでの行程は、見ていて飽きない。

 慎重に材料を測り、混ぜ、フライパンに流して焼く。

 りとはキッチンを行き来する彼女を見守りながら、自分にこんな同棲相手がいたらと想像する。やはり休憩時間にスマートフォンを操作している真麻を見る時に似た感情が、言いようのない色の蠢く胸の底にまとわりついてきた。


「お待たせ。夕飯っぽくないけど、りとって甘いもののイメージだし、ちょうどかも」

「有り難う。すごい!苺まで」

「えへへ。こういうのトッピングするのは、結構、好きだから。この生クリームも美味しいんだよ。ほとんど無添加で、ミルクみたいなの」


 りとは真麻と向かい同士にテーブルに着いて、手を合わせる。

 真麻の言う通りミルクのように軽い口当たりのホイップクリームは、柔らかくしっとりとしたパンケーキの甘みによく合う。苺も、りとの好む甘すぎず酸っぱすぎない適度な味わい。

 ホットケーキが誰にでも作れるものだというのは、撤回だ。
 こんなに優しく、りとの胃袋にすっと馴染むホットケーキは、真麻にしか作れない。りとのことを心配してくれたのが、彼女の言葉をそのまま借りれば友達だからだとしても、真麻の気持ちが舌を伝って胸に落ちてくる。
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