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理想というまやかし
第2章 憂いの皇子
* * * * * * *
隣の部屋の女の顔を初めて見てから四日後、例のごとく、りとは真麻と休暇時間が被っていた。
今日のランチは、いつものコンビニエンスストアと有名パティシエのコラボ新作であるフルーツタルトと苺ドーナツ、合わせて微糖のフルーツティーだ。
身体に悪そうだとさんざん真麻に貶されながら食事を進めて、やはり彼女が終始スマートフォンにつきっきりなのを見て悶々とする。せっかくの進化したコンビニクオリティを現実逃避の術にしたくはないが、甘いものでも食べていないとやっていられないとは、まさしく今のりとの状態を指すのだろう。たまにとりとめない話題を振っても、真麻は最近慣れてきたもので、りとに返事をする片手間に指も動かす。彼女にしてみれば、愛乃に返事をする片手間に、りとに返事をしているのだろうが。
「最近、考えごと?よくしてない?また隣ご近所さんのこと?」
つと、りとは真麻の視線に気づく。スイーツの空箱を見つめながらアイスティーを啜っていると、大きな目がりとを見ていた。
「あ、ああ……」
半々正解の、半分不正解だ。
愛乃とLINEを交わす真麻にやきもきして、せめて休憩時間だけで良い、彼女の時間を独占するにはどのような手を使えば良いか、暇があれば考えている。彼女がよく着用しているアパレルブランドはとっくに調べた。しかしこういう女の子は、意外とファッションの話題を出しても食いつかないことがある。他に真麻の好きなものを考えてみても、愛乃以外に思い当たらない。
そしてもう半分、りとの頭を占めているのは、四日前に知り合った女のことだ。
今こそチャンスなのではないか。りとがぼうっとしていることに興味を示して、真麻は手を止めている。