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理想というまやかし
第2章 憂いの皇子
近所迷惑な隣人が予想外に好印象だった終始を話すと、真麻はりとに釘を刺した。
その人を好きになっちゃダメだよ。
あの女と男は婚姻関係にあるはずだ。そうでなくても、真麻と愛乃のように、条件さえ整えば籍を入れるほどの間柄。
書類や指輪が人間一人を縛りつけるのも滑稽だが、ともかくあの女にはパートナーがいる。
浮気や不倫を毛嫌いしている真麻にとって、友人が当事者になるのはあるまじきことらしい。
「妬いてくれてるのかと思ったのに」
「友達に恋人が出来て妬くなんて、中学生じゃないんだし」
「偏見?中学生に失礼じゃん。って言っても、嫉妬するほど好きってね」
「うん。そりゃあ、りとは好きだよ。学生やめてまで友達出来るなんて思わなかったし。あ、だから尚更!相手いる人はダメっ」
もとよりその気は全くない。
守備範囲の広い人間が他人の長所に目が行くのは当然だ。りとにとってあの隣人は、その日出逢って翌日には顔くらいしか覚えていない客と同じだ。通りすがる度に別の女に思い入れなど持っていたら、何人と恋愛しなければいけなくなるのだ。
というようなことをりとが話すと、真麻が屈託ない笑顔を浮かべた。
浮かべた、というのは文字通りだ。
きっと重力もものともしない、花の綻びに通じる笑顔を仕事モードに切り替えて腰を上げた真麻は、にわかに顔を歪めた。