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理想というまやかし
第2章 憂いの皇子
* * * * * * *
福井未沙とりとが二度目に会ったのは、それから数日のちのことだ。
カフェ営業が終わったところで退勤して帰ってくると、前回とは反対で、未沙の方が買い物袋を下げていた。
彼女がポシェットから鍵を抜き取ったところで、りとは彼女に声をかけた。
「わぁ」
「数日ぶりです。買い物ですか」
「ええ」
「夕飯?それにしては少ないような」
「そうですか?一人暮らしみたいなものだし、このくらいかと。私あんまり食べれないんです」
今一度、りとは女の顔を確かめる。昨日の今日で隣の住人が入れ替わることはないだろうが、だとすれば今日までりとが勝手に幽霊でも見ていたことになる。
不審が顔に出ていたのだろう、未沙がりとにどうかしたかと訊ねてきた。
今こそ積もり積もったものを発散出来るチャンスだ。近所迷惑な隣人と話す機会があれば必ず文句を言うつもりでいたのだから、ここで躊躇ってどうする。
腹を決めて、りとは未沙に向き直る。