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理想というまやかし
第1章 孤独の女神
愛乃を初めて見かけたのは、メイドカフェやイメクラ店が比較的多い裏通りに位置するライブハウスのステージだった。客との距離が近いステージで、彼女は声を張り上げていた。
前後に出ていた色とりどりのキャンディのような女の子達がステレオタイプのアイドルソングを歌っていた分、バンドの激しい重低音により深みを与える愛乃の歌が、余計に印象的だったのかも知れない。
愛乃が現れると客席の熱気が変わったのは、肌で感じた。当時のアルバイト先の後輩に連れられていったライブハウスで、真麻は自分を誘った本人以上に、感動に打ち震えていた。
幼い時分から娘を怯えさせるのが得意だった母親と、顔が綺麗で艶かしい、風俗店に勤める女。
大して積み重ねてもいない人生の中途地点に一度立ち止まった女の子が、これから先の途方もなく長くなるはずの日々の続きを共に過ごす相手として選ぶのは、きっと後者だ。
あの手のライブハウスで演者と知り合うのは容易い。格好良いと称するのがあれだけ適していて、真麻の通っていた女子大であれば、きっと学生達の胸を高鳴らせていたに違いない。そんな愛乃を応援していたファン達は、どういうわけか男が多く、そこに混じっていた真麻は性別の面で有利だった。
愛乃はすぐに新顔のファンに目をとめた。真麻は、気さくに話しかけてくれた彼女と誰にも内緒で連絡先を交換して、その内ライブ会場の外へでも会うようになった。