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理想というまやかし
第2章 憂いの皇子



 夕餉を終えてもまだ健全な時刻、なごやかな余韻に浸って健全な雑談に興じていると、未沙が飲み物を取ってくると言った。フルーツ焼酎と紅茶どっちにする、という問いに紅茶と答えたのは、つと先日の夕飯がデジャブしたからか。

 未沙が入れてきてくれたのは、よくあるアールグレイの水出し紅茶だ。


「娘が帰っていたら、もう少し揃ってるんだけど」

「娘?」

「あ、私、娘がいるの」


 思わず声を上げかけた。

 未沙は、自立した子供がいる年端には見えない。

 父親の気配はない。仏壇は見当たらないところからして、深掘りは避けるべきか。

 こういうところで配慮出来るのは、仕事で得た接客スキルだろう。もちろんセンシティブな事情を抱えていない客達は、元恋人の愚痴を笑い話として披露してきたりするし、りとも彼女らの調子に合わせる。


「そんなにビックリした?」

「あ、ごめん」

「りとって顔に出やすいね。私くらいの歳じゃ、普通でしょ」

「そう?」

「もう四十一だよ」

「え」


 二十代後半程度を想定していたのは、黙っておく。
 未沙が明かした実年齢でも、娘が自立しているのは珍しい。二十歳前後での出産は合法でも、今までりとの周りにこうした例は見なかった。若年齢での出産がどこか遠い世界の話と認識していたのが、いきなり現実になった感じだ。
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