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理想というまやかし
第2章 憂いの皇子
「考えすぎだよ。そいつらが未沙さんの良さにも気づかないで、もったいないことしてるだけ」
「そう思う?」
「娘さんだって、そういう年頃じゃない?一人暮らしって何かと楽だし。未沙さんだって、色々、気を遣わなくて良いのは分かるだろう?」
「……っ」
未沙が頬を赤らめた。
また泣きそうになる彼女を見て、今しがたの他意ない言葉を喉の奥に戻したくなる。
調子が狂う。
ここが職場のフロアなら、十七歳くらいの客が子持ちだろうと通夜帰りの女に指名されようと、りとは顔色変えずに対応出来る。失言や地雷は間違っても踏まないよう気を引き締めていられるのに、未沙は指一本触れないで、りとの外被を剝がしにかかる。
「未沙さん」
テーブルに身を乗り出して、未沙の陶磁の頬に触れる。
「本気で狙おうかな、君を」
驚くほど柔らかな皮膚の表面が、りとの冷えた指先に温度をとかし込んでいた。
暗愚な教育の被害者らしく、未沙の恋愛遍歴は、りとの知る限り男ばかりで成立している。そんなことはとるに足りない問題だ。相手の好意を得られるかより、自分が相手をどう思うかだ。初めから与えてくれる誰かを待ってばかりいては、いつまでも経っても何も得られない。