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理想というまやかし
第2章 憂いの皇子
蒸気をまとって浴室を出てきた未沙は、凄艶だ。
まるで湯烟をそのまま映し込んだ白肌はほんのり上気して、首筋に貼りつく濡れた後れ毛が、部屋着姿のしどけなさを際立たせる。化粧を落としても頬のハリは変わらなかった。ひと回り小さくなった目許は却って彼女を清楚に見せて、鏡に向かって化粧水をはたく姿は、まさに女性のステレオタイプだと思う。
そんなにお手入れしなくても、未沙さんはきっと一生可愛いよ。
鏡越しに囁いて、骨張ったまるい肩に腕を絡めると、未沙が振り返ってきた。交代でシャワーを浴びる前にも交わしたのと同じキスは、さっきより熱が増している。
「本当に、良いの?」
「りとこそ、良いの?私こういう軽いとこあるよ」
「もし未沙さんが軽いなら、私はラッキーだったと思う」
「ん……」
ルームウェアの襟をもてあそんでいた指先を未沙の鎖骨や喉元に滑らせていくと、今一度、りとはぽってりとしたその唇をキスで塞いだ。
「それに一番になってみせるから、問題ない。他の男と違って、私なら未沙さんを離さない」
「私……なんて、……娘もいるのに……」
「そういう謙虚なとこも好き」
部屋が隣というだけあって、勝手知ったる円滑さで、未沙を連れて寝台まで場所を移した。
薄明かりをつける間際、少し不快な匂いがした。きっといつもの男の残り香だ。
豆電球の鼈甲色を帯びた未沙は、躊躇いがちに身頃のボタンに指をかけた。外は田んぼ道、もう健全な時間とは言い難い深夜の入り口、清潔な香りが凝縮した女神の脱衣する音だけ大きく聞こえる。